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集団退塾した7人組母親がまとめて俺塾に怒っているってさ

2000年7月、俺塾に大挙して入塾した中学1年生15名のうち7名は、今で言うところのママ友仲間でした。2001年4月、塾の春期講習期間中、俺は溶連菌が原因での扁桃炎で高熱を発症し、白血球の数値が高くなり、入院しました。俺塾は、俺が1人で運営している塾であったため、春期講習は中止となりました。

入院生活一週間後の退院明けには、新中学3年生の数は8名と変わらなかったのですが、新中学2年生は12名から9名減って3名となってしましました。新中1生は、小学6年生からの持ち上がりの4名のままでした。2000年7月に定員の16名まで一気に膨れ上がった学年である新中2生のみ大きく減らしたのです。

6月になり、中2生の授業で、残った3人のうちの1人の女子生徒が、塾を辞めていった7人の近況を知っているので教えてあげようかと俺に言っていました。俺は特段、知りたい気持ちも沸き起こらなかったのですが、この生徒は、自分が好きな漫画を俺に貸してくれたり、世話焼きで俺塾のだめなところを指摘してくれたりと、何かと俺に親切にすることによって満足していたので、俺は彼女の気持ちを汲んで「教えてくれてくれたらありがたい」と答えました。

彼女の話では、8人の内の7人はお母さん同士が大変な仲良しで、7人そろってこの年の4月に新しくできた塾に移ったというのです。内田君(仮)の母親が7人の仲良しグループのリーダー格で、彼女が、自分の息子を新しくできた塾に転塾させるつもりだから一緒にこないかと6人に誘ったというのです。昨年、俺塾に入塾するときも彼女が6人を誘ったということでした。内田君の母親が、小学校の時にPTAの役員を一緒にやっっていた母親、同じテニスクラブに入会している母親、ご近所の母親と、彼女が自分の知人を集めてグループを形成しているのでした。

この説明の後、女子生徒は声を小さくして「先生、これから話すこと、怒らないでね」と早くも慰め声で言いました。「何を?」と私が質問すると、彼女は「内田君のお母さんがね、この塾の悪口をあちこちに言いふらしてるのよ。6人のお母さんもそれに合わせて悪口を言ってるのよ」と寂しそうに言いました。俺は意外に思ってて「そうなんだ」と答えました。

「内田君たちが新しい塾に移って、この間の中間テストの結果、この塾にいたときよりも悪かったんだよ。学校のプリントをやってればいいだけなのに、その塾は、より高い得点をあげるために塾が用意した対策プリントもやらせたんだってさ。それで学校のプリントを繰り返しやることができなくて成績が下がったんだって。内田君が私に言っていたよ」

「そしたらさ、その塾の教室長が、中学1年生のときに通っていた塾が教科の基礎固めを疎かにしたから、そのせいで今、伸び悩んでいるって7人のお母さんに説明したんだよ。7人ともすっかり信じて、この塾に通わせて失敗した、この塾には大変な怒りを感じてるって言い出したんだよ」

俺は絶句した。7人の母親に怒りはなかった。そんな荒唐無稽な言い訳を真に受けるとはどういうことなんだろう?と不思議に思った。

驚いている俺の顔を見て彼女は「私はこの塾が好きだよ。先生の味方だよ」と、ちょっと芝居がかった可愛らしい声でささやいた。俺に貸してくれたGTOという漫画の世界の真似をしているのが手に取るように分かっておかしかった。

「名誉毀損とか営業妨害とかなんでしょ?電話かけて文句言うの?」

GTO的なトラブルへと発展することに大いに期待するような弾んだ声色だった。

「何もしないよ」

「何もしないの?この塾悪口で潰れちゃうよ?」

「大丈夫だよ。塾の仕事以外にファミレスで深夜のバイトもしているし」

「そうなのかあ。じゃあ、私もただ見守るだけにしとくね」

「うん。ありがとね」

彼女は、GTO的な期待は消して、新たな楽しみを模索し始めたようだった。

その塾は、小規模の教室を複数の県にまたがってチェーン展開している塾だった。そこそこの規模の学習塾の教室長ともなると、さすがに口がうまいもんだなと俺は感心した。7人とも、学年の上位3分の1に入る成績をとっていたから、基礎がだめで今回のテストが失敗したとは考えにくい。それを他塾に責任転嫁をし、保護者にも信じさせるとは大した口のうまさだった。