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学習塾を立ち上げるなら中学校には気をつけろ!

俺塾を開講させた1999年の翌年、俺の県の中学校では、生徒の学習評価の一大改革が実施されました。ABCの観点別学習評価の改訂と相対評価から絶対評価への変更です。文科省は2002年からの実施とありますが、俺の県では2000年に導入されました。

この絶対評価、非常に素晴らしいもので、俺は諸手を挙げて賛成なのですが、俺塾を土台から根こそぎ破壊するほどのパワーも潜ませてもおりました。

俺塾の商圏内の2つの公立中学校の定期試験が、とんでもなく易化したのです。絶対評価に対する中学校の考え方は、おそらく次の通りです。「学習評価が絶対評価になったから、試験問題を易しくして誰でも高得点がとれるようにし、授業中の学習姿勢と宿題の提出状況で評価に差異を設けよう」というものです。「学習内容の理解定着の力が弱い生徒でも、学習への取り組みが充実しているならば4や5をあげちゃいましょう。試験問題は平易でかまいません」ということです。

中間テストや期末テストの数日前に、授業でB4サイズのまとめ演習プリントを2枚配ります。そして2枚のプリントの内容から、試験問題を選んで出題するのです。プリントを繰り返し解けば、90点から100点は余裕です。そのため、どの教科も平均点は最低でも75点はありました。

2学期になると、定期テストに対する中学校のやり方の変化が全ての生徒に浸透し、俺塾に通う生徒らもすっかり怠け者になっていました。

塾の授業で、生徒らは、テキストの問題を見て「こんなに難しい問題は出ない」と言い、授業に集中しない生徒を注意すると「普段は勉強しなくても試験前に学校のプリントをやれば80点や90点はとれる」と言うのです。

そうなのです、中学1年のその生徒が、1学期の中間テストと期末テストで450点以上をとれたのは、俺塾が「奇跡の塾」だからというわけではなく、学校から配られたプリントを繰り返し取り組んだからなのです。そして、あとから入塾した15名の中1は、そのプリントが、そこまで鉄壁の対策プリンだと気づくのが遅れて、得点が高くならなかったのです。

塾では、中学1年生と2年生は2ヶ月に1度、中学3年生は毎月、業者の実力テストを実施していたのですが、中学校の定期テストの易化は、この実力テストにも悪影響を及ぼしました。定期テストを契機としての学習内容の理解定着が十分になされないのですから、実力テストの結果は惨憺たるものになってしまいます。

塾の実力テストでの、生徒らの志望校判定は常に厳しい結果となるので、保護者の俺塾への不安は募るばかりでした。保護者との面談で「中学校の定期試験が安易な考えで行われているから、生徒らに確実な学力が身につかない」と説明しても理解は得られませんでした。

2つの中学校に通う生徒で、学力の上位高校への進学をめざす家庭の保護者や子ども自身は、中学校の定期テストの成果を学習目標としませんし、有力な学習塾に通っていました。また、中学校の定期テスト対策プリントの内容が理解できず、低い得点しかとれない子どもは、個別指導の塾に通っていました。その頃の俺塾は集団授業を行う形態でしたが、意欲の高い生徒は集められず、かといって学力の低い生徒らからは、集団塾ということで敬遠さえ、どっちつかずの中途半端な位置づけにありました。

そもそも学習塾に通う生徒の動機づけは、中学校の定期テストで出題される問題がそこそこ難しく、そのそこそこ難しいテストで得点をとりたいというのがほとんどです。テストが易しければ、生徒にとっては、塾に通う意義も薄まります。また、通ったとしても、教室で無為に時間を過ごす生徒も一定数出てくるでしょう。

2つの中学校の定期テストのとてつもない高得点サービスによって、俺塾は進学塾としての展開ができず、確実に追い込まれていくのでした。